紙屑

Rさんが都内の知人を訪ねた帰り道のこと。
地下鉄に乗っていると、乾いた音を立ててシワシワの紙が床を足元まで滑ってきた。
模様からするとハンバーガーの包み紙のようだ。誰かが車内で食べて放り捨てたのか。
マナーの悪い人がいるものだと呆れていると、紙はまたカサカサ音を立てながら床の上を滑っていく。
走行中の車内である。空調は効いているが感じられるほどの風はない。
どうして紙がひとりでに動いていくのだろう。
靴を履いているせいで感じ取れないだけで、足元では案外空気が動いているのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながら眺めていると、紙の下に動くものが見えた。
目を疑った。
人の指だ。
指を脚のように動かしながら紙屑はあっという間に座席の死角へ入っていった。
周囲の乗客はそれを気にする様子はない。気付いていないのか、気付いた上で無視しているのか。
Rさんは下りるときにそれとなく視線を走らせたが、あの紙屑はもう車内に見当たらなかった。