居眠りの間に

二月初旬の寒い夜だったという。
Rさんが妻と小学生の娘と一緒に焼肉屋に行った。
帰りは妻が運転してくれるというので、Rさんはビールをジョッキ二杯飲んだ。
これはRさんにとって別段多い量でもないのだが、このときは酔いが回るのが早く、帰りの車の助手席でついとろとろと目を閉じてしまった。
それから何分経った頃か、Rさんがふと目を覚ますと車が停まっている。
寝ている間に家に着いたのかと思って隣を見ると、妻はハンドルにしがみつくような体勢で食い入るように前を見つめている。釣られて前を見たものの、無人の道路に点々と街灯が続いているだけで、変なものは見当たらない。
しかし家に着いたわけでもない。どうしてこんな半端なところで停車しているのか。
後ろに目をやると、後部座席の娘はどういうわけかぽかんと口を開けて固まっている。どうした、と声をかけると無言でぽろぽろと涙をこぼした。
その様子にぎょっとしたところで妻がエンジンをかけ、車を出した。家に着くまでの間、Rさんは一体何があったのか妻や娘に訊いたが、二人とも家までずっと口を閉ざしたままだった。二人が何かとんでもないものを目にしたらしいことは察したが、それが何なのかがわからない。


家に帰るなり、妻はキッチンから塩を持ち出して車の回りに叩きつけるようにばらまいた。その様子が余りに必死だったので、Rさんはゾッとしてそれ以上問い質すことはできなかったという。