ばあちゃん

大学生のMさんが友人たちと川原でバーベキューをした。
車で山の中のキャンプ場に行き、そこに流れる川のほとりで肉を焼いて飲み食いし、日帰りする予定だった。
六人で車二台に乗り、午前十時くらいにはキャンプ場に着いて食事の支度を始めた。
バーベキューは大いに盛り上がり、気持ちよく飲み食いしてあっという間に午後二時を過ぎていた。
山の中なので日が陰るのが早いはずだ。そろそろ片付けて引き上げようかという頃に、Fという友人が勢いよく立ち上がった。
俺ちょっとばあちゃんのとこに行ってくる。
そう言って森の方へまっすぐ歩いていく。
ばあちゃんってどういうことだろう、と他のメンバーは顔を見合わせた。
その近辺にFの家族がいるという話は聞いていない。彼は別の県の出身のはずだ。
そもそも様子が変だ。脇目もふらずに森に向かっている。
Fは真面目で日頃からみんなに頼られる存在だ。冗談でこんな不可解なことをやるとは思えない。
心配になったのでMさんともうひとりの友人がFの後を追ったが、Fはそのままキャンプ場の外の森にずんずん入っていく。
道も何もない藪をかき分けながらまっすぐ前だけを見て歩いていく。
これはおかしい、どうにもまずい。
Mさんと友人は急いでFに追いつくと、肩を掴んで引き止めた。
しかしFは構わすに前進しようとする。
ばあちゃん、俺いかなきゃ。
目を見開きながらそんなことを口走っている。まともではない、と見て取ったMさんたちはFを羽交い締めにして車まで連れて行った。
始めはジタバタしていたFも車に乗せられる頃にはおとなしくなっていたが、相変わらずうつろな目つきでばあちゃんがどうのとつぶやき続けていた。

 


その後Fは体調を崩したらしく、大学に来なくなって結局そのまま退学してしまったという。