スクラップ

Kさんが職場に通う道の途中に自動車工場があり、そこに隣接してスクラップ置き場がある。
ここを通るとき、Kさんはいつも何となくイヤな感じがしていた。
見通しがいい直線で片側一車線ながら道幅も広い。走りづらいところでは全くない。しかしそこを通るたびになぜか寒くなったり、急にみぞおちの辺りがグッと緊張したりする。
一体ここに何があるんだろう、とそこを通るときに見回す癖がついた。


あるときここを通りかかったKさんがいつものように辺りを見回し、何か変なものを見たような気がして一度逸らした視線をスクラップ置き場に向けた。
ドアがなかったり、タイヤがなかったりする車がたくさん積み上げられている。
その車内に人がいる。
一人二人ではない。どの車にも、ぎっしり人が詰まっている。何をしているのかはわからないが、老人が多いように見えた。
イヤな感じがいつになく強く、吐き気さえ覚えるほどだった。
そんなところに人がいるはずがないのはKさんにもわかった。危険だから部外者は立入禁止のはずだし、関係者だって積まれた車に乗り込むなんてことはしないだろう。
Kさんは急いでそこを通り過ぎた。あれは見てはいけないものだという直感があった。


それから半年ほどしてこのスクラップ置き場で火災があり、積まれていた車の多くが撤去された。それを境にKさんがそこでイヤな感じを覚えることはなくなったという。