リクライニング

ある人が静岡から東京行きの高速バスに乗った。
平日の夜で、乗客はまばら。前後も空席なので、気兼ねなく寛がせてもらおうと、シートを後ろに倒した。
バンバン!
後ろからいかにも不機嫌そうにシートが叩かれた。
あれっ、後ろに誰かいるのか。いつの間に?
シートを戻してから後ろを覗いたが、誰もいない。その時座っていたのは後ろから三列目だったが、後ろ二列には誰一人いなかった。
じゃあ今叩いたのは誰だ?
シートの死角に小さい子でも隠れているんじゃないだろうかと下の方も見たものの、やはりいない。
何かのはずみで叩かれたような振動が伝わっただけなんだろうか。誰もいないのならやはり気を遣う必要はないだろう。
改めてシートを倒した。
バンバンバンッ!
やはり後ろから叩かれた。誰か後ろにいる!
しかしすぐに後ろを見ても姿はない。
釈然としないながらもシートを戻し、空席になっている反対側の窓際の席に移ってからシートを倒したが、今度は何事もなかった。
しかし降りるまでとても寛ぐ気にはなれなかった。