スマホ爺

高校生のKさんのクラスで、女子生徒数人が集まって会話していた。
朝の始業三〇分前くらいのことで、教室内にはだんだん生徒が多くなってくる時間だ。
女子生徒たちはいつものように大声で話しているので会話の内容が教室中に筒抜けだった。Kさんはそのとき自分の席で自習していたが、嫌でも彼女たちの声が耳に入ってくる。
女子生徒のひとりが言う。

 

うちさあ、最近スマホやばいんだけど。

 

彼女の話では、スマートフォンに時折知らない相手からメッセージが入るのだという。それだけなら単なるフィッシング詐欺かなにかとして無視することもできるが、そのメッセージが来るたびに他にも変なことが起こる。

 

壁紙にさあ、おじいちゃんが出てくるの。知らないおじいちゃん。

 

何それ、と訝しむ他の女子たちに、これなんだけどと言って女子生徒はスマートフォンを見せた。
えっ、怖っ、などという声が上がり、思わずKさんもそちらを見た。席が離れているのでスマートフォンの画面は見えない。
それからすぐに担任教師がやってきて、話していた女子たちはぱっと散って自分たちの席についた。
Kさんはスマートフォンの画面にどんなものが見えるのかその日ずっと気になっていたが、その女子は普段ほとんど話さない相手だ。見せてくれと頼むのもためらわれて、確かめることはできなかった。

 

そのスマートフォンの話をしていた女子生徒が、翌日から学校に来なくなった。急病で入院したという。
病名や病状はクラスに知らされないまま、一週間経っても彼女は来なかった。
まさかあのスマホの件が関係してるのかな。Kさんはクラスの友達にそう話を振った。もちろん真剣にそう考えていたわけではなく、単なる与太話だ。
しかし友達はそのスマートフォンの話を覚えていなかった。他のクラスメイトに聞いても同様だった。
彼女たちがあれだけ大きな声で会話していたのに、誰もそれに注意を払っていなかったのだろうか。

それどころか、学校に来なくなる前の朝に彼女たちが会話していたことさえ誰も覚えていない。まるでKさんにしか聞こえていなかったかのようだった。


Kさんの学年が卒業するまでその女子生徒は学校に戻ってこなかったという。