駐車場の女

十年以上前、山梨に住むEさんが仕事で静岡に行った帰りのこと。
夜の十一時を過ぎた頃にようやく山梨に入ったが、仕事と運転の疲れのせいか猛烈に眠い。ハンドルを握りながら今にも瞼が落ちそうだ。
これではいかんとどこか仮眠を取るところを探すと、ちょうど前方にコンビニの看板が見える。
これ幸いと、広い駐車場の隅に車を駐めてすぐに運転席で眠りこんだ。


それからどれだけ時間が経ったのか、気がつくと車が揺れている。
何事だと見回すと助手席に人がいる。顔色の悪い女だ。
膝の上に握った両手を置いて、じっと俯いている。その両手が妙に小さい。
誰だ、と叫ぼうとしたが声が出ない。隙間風のような音を立てて自分の喉から息が出た。
女は俯いたまま目だけこちらを向いて言った。
「それって、――よね」
それって、に続く言葉が後からいくら考えても思い出せないという。


次に気がつくと助手席には誰もいなかった。ドアのロックもしっかりされている。
時計を見るとコンビニに入ってきてから十分ほどしか経っていない。
なんだ夢か、とほっとしたが全力で走った後のように脈が速く、全身に汗をかいている。
ひどい夢を見て興奮したせいか、眠気は完全に失せてしまったようだった。
車を出そうとしたところで気がついた。助手席のシートに何かがある。
泥のついた木の葉が何枚も散らばっていた。林の地面に積もった枯葉をふりかけたような状態だ。
シートの上だけでなく床にも。運転席の足元にも。後部座席にも。
土臭さがぷんと鼻をついた。
慌ててエンジンを停め、車の外に掃き出してから逃げるようにその場を立ち去ったという。