老夫婦の記念写真

Gさんが一人で伊豆に旅行して、帰ってきた日のこと。
旅先で撮ったデジタルカメラのデータを見返していると、途中でひとつだけ、覚えのない光景があった。
写真の中央に老夫婦が並んで立っている。二人とも穏やかな表情でいかにも仲睦まじい夫婦といった印象だ。
その背後にはトタン屋根の小屋と鬱蒼とした木々が写っている。
自宅の庭で記念写真を撮ったという風情だが、旅の間こんな老夫婦には会わなかった。背景になっている場所にも見覚えはない。
デジタルの画像ファイルには作成日時や使用したカメラの機種などが記録されていて、パソコンで確認できる。
これを見たところ確かにGさんのカメラで撮られた画像データのようだし、日付も旅行中のものだ。
しかし旅行の間はGさんがカメラを肌身離さず持っていたから、他の誰かが勝手にカメラを使ってこの写真を撮ったはずがない。カメラを手の届くところに置いておかなかったのはせいぜい入浴中くらいだが、風呂に入ったのは日が暮れた後だった。老夫婦の写真は明るい時間帯に撮られているのだ。
旅行中にカメラを他の機器につないだりメモリーカードを抜いたりしたこともない。覚えのない写真が途中に挟まれているのは不可解でしかなかった。


この老夫婦が誰なのかは後に判明した。
Gさんが実家に帰ったときに両親に旅行中の写真を見せたときのことである。
写真をパソコンの画面で見ていた母が言う。
あら、長崎のおじさんとおばさん。どうしたのこの写真。
母が指差したのはあの老夫婦だ。Gさんはその写真が交じっていたのをこのときすっかり忘れていた。
写っているのは間違いなく長崎のおじさん夫婦だという。
しかしその人物のことをGさんは聞いたことがなかった。母によると、母の実家の遠縁にあたる人だという。
もう母も二十年近く会っていないのでこの人達が今どうしているかは知らない。
あんたなんでおじさんたち撮ったの? どこで?
逆に母からそう問われたが、答えようがなかった。
おじさんたちに何かあったのかしら……。心配した母が実家に連絡を取ってみたものの、おじさんもおばさんも変わりなく元気にやっているという。
どういうわけで二人の写真がGさんのカメラに紛れ込んだのか、今でも不明のままだ。