発熱

高校のサッカー部でこういうことがあったという。
練習中に部員が一人、突然崩れ落ちるように倒れた。
呼吸が荒く熱が高い。意識はあるが顔が真っ赤で酷く苦しそうだ。
すぐ保健室に担ぎ込んでベッドに寝かせた。救急車を呼ぶほどではなさそうだが家に連絡してすぐ迎えに来てもらうことになった。
熱を出した部員と付き添いのマネージャー、保健の先生の三人が保健室で迎えが来るのを待っていると、どこからか足音が聞こえる。
ぴちゃぴちゃと床を裸足で歩き回る足音だ。
廊下を裸足で歩いても戸を閉めた保健室の中までは聞こえないはずで、実際その音はすぐ傍から聞こえる。
しかし歩いている本人の姿が見えない。誰も立っていないのに足音だけが保健室の中をうろついている。
マネージャーと保健の先生は怪訝な顔を見合わせた。何かいるのか?
保健の先生が足音に向かって言った。
保健室の中では静かにしなさい。無闇に歩き回らない。
足音がぴたりと止まった。先生の言葉が通じたのだろうか。マネージャーが息を呑んだ。
そこへ戸が開いて別の先生がやってきた。迎えが来たという。
声をかけられてベッドの部員が体を起こした。なぜか妙にすっきりした顔をしている。
どういうわけか、熱はすっかり引いていた。
本人の話では、ベッドに横になっている間に夢を見たという。
知らない場所にいて、周囲が真っ白。帰ろうとして歩き回っていると誰かに叱られた。歩き回るなという声がする。
誰かいるのか、と見回したが誰もいない。しかし何だか体が軽くなったように思えて、ふと気がつくと目が覚めていたという。