古雑誌

Mさんという女性が一人暮らしをしていた時のこと。
午後からなんとなく頭痛を覚え、その日の仕事はなんとか終えたものの、帰りの電車の中ではもう我慢できないくらいにズキズキと痛くなり、吐き気も催してきた。
フラフラと帰宅してから頭痛薬を飲み、食事も取らずにそのままベッドに横になった。
疲れていたせいもあってすぐに眠り込んだMさんだったが、ふと目を覚ましてみると誰かが部屋の中で歩き回っている。
まだ痛みでぼんやりする頭を動かしてそちらを見ると、そこにいたのはMさんのお母さんだった。来るという連絡を貰った覚えはなかったが、いつの間に来たのだろう。
お母さんは寝ているMさんには目もくれず、中腰になって何かを床に置いている。
何してるんだろう、とよく見てみると週刊誌のようなものを何冊も床に並べているらしい。一体何のためにそんなことを、と思ったがそこでふと気が付いた。お母さんは今入院中だ。
Mさんのお母さんはその頃体調を崩してしばらく入院していた。来れるはずがない。
ならこれは夢か。頭痛のせいもあって物を考えたくないMさんは無理矢理そう結論付けてまたまぶたを閉じた。
次に目が覚めたのは朝になってからで、もう大方頭痛は治まっていた。
お腹が減ったな、と体を起こしたMさんは部屋の有様を見て息を呑んだ。
部屋の床一面に、週刊誌が隙間なく敷き詰められている。昨夜のお母さんの姿が脳裏に蘇った。
夢じゃなかったの!?
本当にお母さんが来てたの? 何のためにこんな?
Mさんは週刊誌など買わないから、わざわざこんなに多くの雑誌を持ち込んだことになる。なぜ敷き詰めたのかも意味がわからない。
すぐに実家に電話したところお父さんが出たが、やはりまだお母さんは入院中だという。Mさんの部屋まで来たはずがない。
ならば昨夜のあれは誰だった? お母さんじゃなかったの?
混乱するMさんだったが、とにかく雑誌を片付けようと拾い上げてみると何やら表紙に並んでいる単語が妙に古い。Mさんが子供の頃に引退した野球選手の名前が載っている。
発行年月日を見てみると二十年近く前だった。その一冊だけではなく、どれも十年から二十年は古い日付だ。
こんな古い雑誌がなんで今頃ここに?
誰かが悪戯や嫌がらせで置いていったにしても、そこまで古い雑誌をどこから持ってきたのか?
一体これにどんな意味が?
何かが挟まれているのかとも考えたが、振ってみてもバサバサ音を立てるばかりで何も出ない。
拾い集めた雑誌はとりあえず部屋の隅に積んでおいたが、邪魔なので次の資源ゴミの日に捨ててしまった。


後でお母さんにも部屋に来なかったか尋ねてみたものの、やはりずっと病院にいたからそんな訳はないと一蹴されてしまったという。