頭痛の種

Tさんは日中、仕事をしている最中にだんだん頭が痛みだし、暗くなる頃には痛みが更に酷くなって家に帰るのがやっとだった。
救急外来に連れて行こうかと奥さんは心配したが、Tさんは薬を飲んで寝ていれば治るだろうとすぐ布団に入った。
しかし痛みのせいでなかなか寝付けない。
それでも寝返りを繰り返すうちにいつの間にか眠っていたようで、夜中にふっと目が覚めた。
頭痛はまだ続いている。このまま痛みが治まらなかったらどうしよう、とTさんが弱気になったその時。
隣に寝ていた奥さんが突然起き上がり、傍にあった雑誌を掴んでTさんの枕元目掛けて叩きつけた!
何事だ、と度肝を抜かれたTさんだったが、ふと気がつくと頭痛がすっかり引いている。
起き上がって奥さんに今の行為について尋ねたものの、奥さんは後で話すから寝よう――という。
夜も遅いし、とりあえず奥さんの言葉に従ってTさんはまた横になった。


翌朝奥さんが語ったことによると、奥さんはTさんの唸り声で目を覚ましたのだという。
やっぱり病院に連れて行った方がいいのでは、と思いながらそちらを見ると、Tさんの枕元がぼんやりと灰色になっている。
えっ、と思いながら目を凝らすと、暗い部屋の中でそこだけが灰色で、どうも何かうすぼんやりとした灰色のかたまりがあるらしく見える。
しかもそのかたまりがTさんの頭に繋がっている。まるでTさんの頭を飲み込もうとしているように奥さんには思えた。
そこで慌てて雑誌でそこを叩いたところ、灰色のものはぱっと消えてなくなったのだという。


Tさんはすぐにはその話を信じられなかったが、奥さんが雑誌を叩きつけた途端に頭痛が嘘のように消えたのも事実だった。
自分が気づかなかっただけで、得体の知れない何かが自分の枕元にいたのだろうか。それが頭痛の原因だったのだろうかと思うとぞっとしたという。