Fさんが小学生の時の話。
一人で留守番をしていたFさんは退屈しのぎに何か面白そうなものがないかと家の中を探し回った。
しかし毎日過ごす家の中にそうそう目新しいものがあるはずもない。大したものは見つからなかったが、そこでFさんはふと漫画の『ドラえもん』を思い出した。
ドラえもんは押し入れの中を寝床にしている。あれの真似をして押し入れに入ってみたら面白そうだ。
これはいい思いつきだと早速Fさんは毎日両親と一緒に寝ている寝室へ向かった。
押し入れを開けると畳んだ布団がぎっしり押し込まれている。隙間がほとんどないのでドラえもんのようにはできそうもない。
しかしそれはそれで面白い遊びができそうではあった。この畳んだ布団の間に挟まってみたら楽しそうだ。
Fさんは目の前に重なった布団の間に両腕をグッと差し込んでみた。
すると……予想に反した状況がそこにはあった。
布団に挟んだ両腕の肘から先が何もない空間に出てしまったのだ。
畳んだ布団が重なっているのだから、その間に大きな隙間などできるわけがない。差し込んだ両腕は全体が布団に挟まれるはずだった。
しかしその時は確かに布団の中に大きな空間があり、両手をその中で振り回しても肘から先が何にも触れない。
えっ、なんで?
全く想像していなかった事態に驚いたFさんは、そのまま布団を持ち上げて中を見ようとしたのだが積まれた布団が重くて動かない。
そこで両腕を差し込んだ布団の隙間に頭を突っ込んで中を見てみようと考えたその時。
グッと右手の手首を何者かに掴まれた。
うわっ、と慌てて手を引っ込めた拍子に掴まれた手が緩んで両腕は布団の外へと出せた。
今のは一体誰だ。誰の手だ。そもそもあんなに大きな空間が布団の間にあることが納得できない。
Fさんはさんは恐る恐るもう一度布団の間を少しずつ探ってみたが、今度はどこまで腕を差し込んでもあの空間に出ない。
おかしい、と他の隙間にも手を入れてみたもののやはり同じで、ぴっちりと布団が詰まっているだけだ。
どうにも腑に落ちないFさんは押し入れの布団を全部引っ張り出して確かめてみたがどう見てもいつも寝ている布団と変わらない。
それから布団をもう一度押し入れに仕舞っておかなかったので、しばらくして帰ってきたお母さんに「また悪戯して散らかして!」と怒られた。
謎は謎のまま残ってしまったが、手首を掴んできた妙に温かく柔らかい手の感触は成人した今でもはっきりと覚えているという。