残っている生徒

とある大手学習塾の、茨城の某所にある教室での話。
夜10時過ぎ、教室長が電話で上司と打ち合わせをしていた。
仕事が11時くらいまでかかることも珍しくない。
その日もやっとのことで翌日の会議の準備を終えて、その電話が終われば帰れるところだった。
打ち合わせがひと通り終わったところで、電話相手からこんなことを言われた。
「あれ、まだ生徒さん残ってる?ちょっと遅くまで残しすぎじゃない?」
授業は9時で終わって、それから30分ほどで生徒は全員帰宅させている。
あらためて見回してみても、教室長以外誰も残っていない。
そもそもなぜそんなことを言うのか。
「いや、みんな帰りましたよ。どうしてですか?」
「え?だって電話越しに他の話し声、聞こえてるよ。子供の声だよねそれ」
「まさか。本当に誰もいないですし、静かですよ」
「……ああ、そう。とりあえずもう遅いから、残ってる子がいたら早く帰すように」
どうも上司はこちらの言うことをあまり信じていないようである。
釈然としないまま電話を切って、教室長はそれからすぐに戸締まりをして帰宅した。


また別の日、今度は日中のこと。
授業開始よりまだ早い時間、生徒はまだ誰も来ておらず、教室長が一人で仕事をしていた。
そこに電話が鳴って、出ると相手は別の教室の教室長である。
翌週の研修についての質問で、資料を見ながらいくつか打ち合わせをした。
すると電話の最後に、また相手がこんなことを言う。
「もう生徒さん来てるんですか?随分早くないですか」
学校もまだ終わっていない時刻である。生徒が来ているはずがないし、事実誰もいない。
そう伝えるものの、やはり信じてもらえなかった。
原因は不明ながら、どうも電話の向こうに子供の声が聞こえていることがあるようだった。
その後も何度か同様の事があったが、教室長自身は教室内で別段変わった声や物に出くわしたことは一度もないという。