定期テスト

高校の定期テスト中のこと。
生徒たちが答案と格闘している前に、監督役の先生がいる。五十代半ばの社会科の先生だ。
先生は特に生徒たちに注意を向けるわけでもなく、本を読みながらじっと座っていた。
そこへ前のドアからスッと誰かが入ってきた。それに気付いた生徒たちが視線を上げると、入ってきたのは監督役の先生だった。
もともと黒板の前に座っていた先生ももちろんそのまま座っている。顔から服装まで全く同じだ。
同じ先生が二人になった。
生徒たちは狼狽えた。しかしテスト中でもあるし、騒ぎ立てるのも気が引ける。
後から入ってきた先生は落ち着いた足取りで机の間を進んでいく。こちらのほうがよほど試験監督らしい動きだ。生徒たちは目を合わせるのも気味が悪いので顔を伏せた。
元からいた先生はずっと動かずに本を読んでいる。何が起きているのか気付いていないのだろうか。
後から来た先生は教室を一周するとそのまま前のドアから出ていった。
テストに集中していた生徒はこのことに気付かなかったようで、二人目の先生を見た者はクラスの半数ほどだった。
後から気付いたことだが、二人目の先生が入ってきた時も出ていった時も、ドアを開け閉めする音を誰一人聞いた覚えがなかった。


あれはいわゆるドッペルゲンガーというやつか、もうすぐあの先生死ぬんじゃないか、などという噂が生徒の間に囁かれたが、それが現実になることはなく先生は定年まで無事に勤めたという。