エレベーターの中

もうひとつ、似たような話がある。
こちらは夕暮れ時の出来事。
高校生のEさんが自宅のマンションに帰ってきて、いつものようにエレベーターの前に立った。
すぐに箱が降りてきて、眼の前で扉が開く。
中には一人乗っていて、目が合った。
咄嗟に目を逸らしたが、あれ?と思い直してもう一度相手の顔を見た。
自分そっくりだ。
いや、自分自身にしか見えない。
違っているのは服装で、こちらは学校帰りで制服を着ていたが、エレベーターの中の自分は私服姿だ。
その服も、確かに自分の持ち物だ。
エレベーターの中の自分もこちらを見てぽかんと口を開けて驚いている様子で、同じ顔が扉を挟んで数秒間見つめ合う形となった。
すると急に扉が閉まり、驚いて頭上の階数表示を見ると、なぜかエレベーターは二階から降りてくるところだった。
じゃあ今ここに停まっていたのは何だったの?
混乱するEさんの眼の前で、もう一度扉が開いた。
今度は中に誰も乗っていなかった。


その後二週間ほど、Eさんは自宅マンションのエレベーターを使わずに生活していたという。