顔老婆

Eさんの近所に空巣狙いの泥棒が入った。
家の中が何箇所か荒らされていたが、確認してみると不思議なことに盗られたものはなさそうだった。
銀行の通帳や貴金属など金目のものは手つかずだし、他にも失くなったものがない。
警察に被害届は出したが、一体どういうことだろうとその家の人も話を聞いたEさんも首を捻った。
それから一週間ほどして犯人が自首した。
なんと泥棒に入られた家の隣の住人で、ギャンブルで借金を作り金に困った挙句の犯行だったらしい。
何も盗らなかった経緯を、Eさんは後で被害者から伝え聞いた。
警察に供述した内容は概ね以下のようなものだったという。


不在を狙って忍び込み、金目のものを探しているうちに緊張のためか喉が乾いてきた。
冷蔵庫になにか飲み物が入っていないかと、開けてみたところで仰天した。
老人の顔があった。見覚えがある顔だ。その家の、何年か前に亡くなったおばあさんだ。
顔だけのおばあさんが冷蔵庫に入っている。
何か言いたそうに口がぱくぱく動いたという。
慌てて冷蔵庫の扉を閉めたが、もう金目のものを探すどころではない。一目散に飛び出して自宅まで逃げ帰った。
ところがそれからというもの、どこにいてもあのおばあさんの顔が視界の隅にチラつくようになった。
自宅の冷蔵庫も開けられなくなった。
一週間経ってもう耐えられなくなり、自首したのだという。