バンガロー

大学生のSさんが友人たちとレンタカーを借りて泊まりがけのドライブに出かけた。
宿泊には県内にあるキャンプ場を予約してあり、そこへ着いたのは夕方五時過ぎ。真っ赤な夕焼けが鮮やかに辺りの山を照らしていた。
そのキャンプ上は予約すればバンガローを借りることができる。
Sさんたちも受付で鍵を受け取るとその番号のバンガローへと向かった。
バンガローは番号順に並んでいるのですぐに見つけられた。外観はなかなか立派で、五人で泊まるには十分な大きさに思える。
わくわくしながらSさんが先頭に立って鍵を挿し、扉を開けるとそこには予想外の光景があった。
中は六畳くらいの座敷になっていて、その中央には丸いちゃぶ台が置かれている。
ちゃぶ台の上にはカレーライスの盛りつけられた皿が並んでおり、それを囲んで夫婦らしき中年の男女と小学生くらいの女の子が座っている。
部屋の中の三人は驚いたようにこちらを見つめ、ドアノブを握ったままのSさんと視線が合った。
「すみません、間違えました!」
頭を下げてすぐにドアを閉めたSさんだったが、改めて確認すると鍵の番号とバンガローに書かれた番号は確かに合っている。
それにキャンプ場のバンガローの中に座敷?
一体今のはどういうことだろうか。錯覚にしてははっきりしすぎている。
恐る恐るもう一度ドアを開けてみると、先程見た座敷は消え失せてただのログハウスのバンガローでしかない。
さっきの三人は何だったんだろう。
首をひねっているSさんに後ろにいる友人たちが言う。
「何いきなり謝ってんだ?」
友人たちには最初からドアの向こうがただのバンガローにしか見えておらず、Sさんがドアを開けた途端に誰もいない室内に向けて慌てて謝ってドアを閉めたようにしか見えなかったという。
しかし一同がバンガローの中に入ると、そこにははっきりとカレーの匂いが漂っている。他のバンガローや外の炊事場から流れてきた匂いかとも思ったが、外ではそんな匂いはしていなかった。
つい先程までそこで誰かがカレーを食べていたとしか思えなかったという。