イシダイ

釣りが趣味の中学生の話。
秋頃に仲の良い友達二人で釣りに行った。
朝早くから港へ行き、護岸に座って糸を垂らした。
凪いで波も弱く、あまり釣れそうな感じもなかったのだが、予想に反して順調な釣果があった。
持ってきたクーラーボックスが一時間ほどで一杯になる。
しかしまだ日も高くないし、順調なうちに帰るのも惜しい。
昼ぐらいまでは続けようと糸を垂らし続けた。
すると程なくしてひとりの糸に強い引きが来た。
注意深くリールを巻くと、水面近くに見えてきた魚の姿はどうやらイシダイだ。縞模様がはっきり見える。
そのポイントではあまり見ない獲物だったから、二人は大興奮で糸の先を見つめた。
しかしイシダイにしてはどうもおかしい気もする。
尾の先が妙に長いように見える。と、いうよりは尾に何か白く長い紐のようなものが繋がっている。
何だろうな、と話しながらも糸を手繰り寄せ、やっと魚が水面から上がった。
もう一人が網ですくおうとしたとき、イシダイの尾に繋がった長い何かがはっきり見えた。
細く、紙のように白い手がイシダイの尾をしっかりと掴んでいるのである。
その白い手は海の中から長く伸びてイシダイまで届いており、腕の元がどこにあるのか見えない。
えっ?
と気を取られたその瞬間、イシダイはぐっと海の中へ引っ張られて釣り糸が切れた。
白い手はイシダイを掴んだまま海の中へとものすごいスピードで戻っていく。


もうそれ以上釣りを続ける気にはならなかった。