布団の中

Eさんがマンションの自室で机に向かい、パソコンを使っていた夜のこと。
机の向かって左側にはベッドがあり、その日の朝起きた時のままに布団が皺くちゃになっていた。
しばらくパソコンの操作に集中していると、視界の端のあたりで布団がもぞもぞと動いていることに気が付いた。
猫や犬などは飼っていないので、部屋の中にEさん自身以外に動くものはないはずである。
もしかすると部屋に鼠でも入りこんでいるのだろうか。
そうだとすれば、布団の中に糞でもされてはかなわない。
Eさんはそっと立ち上がると、息を殺して片足を上げ、もぞもぞと動き続ける布団をめがけて思いっきりその足を振り下ろした。
鼠を布団から追い出すのならただ布団をめくりあげればいいのだが、思いがけないことについ頭に血がのぼっていたEさんはそんな行動にでてしまったのだという。
すると、足の下で鶏の卵が割れるような、クシャッという感触があり、それに続いて布団の中から「うおぉーーむ」というような、くぐもった唸り声が響いた。
その感触と声に驚いたEさんは咄嗟に飛び退いて、それからすぐに布団を剥ぎとったものの、敷き布団にも掛け布団にも変わったところは全くなかった。
それ以来は特に部屋の中で変わったことも起きていないので、その後もEさんは同じ部屋に暮らしている。
ただ、その時足の裏で感じたクシャッという感触は、今でもはっきりと思い出せるのだという。