天井裏

Mさんは月に一回くらいの割合で実家に行っている。
Mさんたち姉妹がみな嫁ぎ、やがて母親が亡くなり、一人残った父親も老人施設に入ってからは実家には誰も住んでいない。
そこでMさんがときどき掃除や家財の整理のために行くことにしているのだ。
ある時Mさんが夫と一緒に実家に行った、その晩のこと。
二階の寝室で布団に入った時に夫がふと呟いた。
「天井裏に何かいるみたいだな」
特に気にもしていなかったが、そういえば布団を敷いている間にも天井の上から微かに物音が聞こえてきていたような気もする。
それは鼠か小鳥か、そのくらいの小動物が天井板の上を走り回るような音で、夫もその音を聞いていたらしい。
人が住まないから動物が入り込んで住み着いてしまったのだろう、という結論に達したMさんたちは駆除を業者に頼むことにした。
一週間後、Mさんの立ち会いのもとで駆除業者が押入れの天井から天井裏に入り込んだ。
すると業者は上半身だけを天井裏に突っ込んだだけですぐに降りてきてしまった。
「こんなものが上にあったんですが……」
降りてきた業者は手に一本の白いユリの花を握っている。
まだみずみずしいままの切り花で、つい今しがた花屋から買ってきたかのようだ。
しかしなぜそんなものが天井裏にあるのだろう。
Mさんはずっと天井裏など開けもしなかったし、Mさん以外にこの家に出入りする者などいないはずだ。もちろん業者も天井裏に上がるまで花など持ってはいなかった。
いつ、誰が何のためにそんなものを置いたのだろうか。
怪訝な顔をするMさんに業者は更に続けた。
「一本だけじゃないんです、よく確認してませんがもっとたくさんあるんです」
とりあえずMさんのデジカメを使って業者に天井裏の写真を撮って貰ったところ、画像には白いものがびっしりと写っている。
すべて白ユリだ。
天井板を埋め尽くすようにユリの花が散らばっているのが写真からわかる。
しかし実家の鍵はMさんだけが持っていて、錠を開けたのはその日の朝が一週間ぶりだった。
花は、いつ運び込まれたというのか。一体誰が。
それから天井裏の花は業者の手によってすべて撤去されたが、当初の目的である小動物の姿や痕跡はなぜか一向に見当たらなかったのだという。


そして天井裏を動きまわるような微かな音はその後も何度か耳にしたというが、もう天井裏の様子を確かめてみる気にはならないとMさんは言う。