セメント

日曜大工が趣味のUさんが、自宅の車庫の前にセメントを敷いた。
三畳ほどの広さに木で枠を作り、水で溶いたセメントを流す。
素人仕事なので時間は掛かったが、本人としてはなかなか満足の行く出来になった。
表面をうまく平らに均せたので、あとは固まるのを待つだけである。
傍らに腰を下ろして煙草に火を点け、煙を吹きながらもう一度視線を上げたUさんはそこで思わず眼を疑ってしまった。
すっかり平らにしたはずのセメントのほぼ中央に、裸足の足跡がぽつんと見えるのである。
うっかり自分で付けてしまったのに今頃気が付いたのかと思ったが、そんなはずはなかった。
作業中Uさんはずっと靴を履いていたし、表面を均してからは木枠の中に足を踏み入れてはいないから、他の誰かが付けた足跡に間違いなかった

しかしそうすると誰の仕業だというのか。
作業中も、一服しようと腰を下ろしたときも、誰も近くには現れなかったはずだった。
さらに奇妙なのは、足跡がセメントの中央付近にひとつだけ付いていることだった。
そこに行くまでの足跡が付いていないのである。
ジャンプしても届かない距離ではないものの、他に足跡を付けずに立ち去るにはまた同じ長さを助走なしで跳ばなければならない。
空中から足が一本現れて、ぺたりと足跡を残してまた消えたとでも考えるしかなかった。
あんまり不思議なので、その足跡は今も栃木のUさんの家にそのまま残されている。