天井の男

Yさんがひとり暮らしをしていた時の話。
ある晩、酷く疲れて早めに布団に入ったYさんだったが、あまりの寝苦しさから夜中に眼を覚ました。
体がガタガタ震えるので熱を計ってみると38℃を超えている。
薬を飲んで再び布団に潜り込んだものの、悪寒のために寝付けず、すぐには薬が効く様子もない。
朦朧とした意識のまま何度も寝返りをうっているうち、ふと天井におかしなものが見えることに気が付いた。
天井に人が張り付いているのである。
まるで天井が床で、そこに仰向けに寝ているように人が横たわっている。
灰色のスーツを着た見覚えのない男で、天井に寝そべりながら無言でYさんを見下ろしていた。
しかしそんなものを見てもYさんは特に何とも思わなかった。
熱のせいで変な幻覚が見えてるな、くらいの感想しか抱かなかったYさんはその後もしばらくしてから、やっと薬が効いて眠ることができた。
翌朝目を覚ますと熱はすっかり下がっていて、多少のだるさは残るものの何とか仕事には行けそうなくらいに回復していた。
いつもより少し寝過ごしていたので慌てて身支度を済ませようとした時、頭の上から声が聞こえた。
「布団、干したほうがいいよ」
声のした方を見上げると、昨夜と同じようにスーツ姿の男が天井に張り付いている。
幻覚じゃなかったのか!?と驚いた瞬間に男はぱっと消えた。


布団は次の日曜日に干したという。