Yさんの通っていた高校には部室棟と呼ばれる細長い建物があり、運動部はその一、二室をそれぞれ部室として宛てがわれていた。
ハンドボール部だったYさんが練習後に部室で仲間と雑談しながら帰り支度をしていると、開け放っていたドアの前を真っ赤な人影が通り過ぎた。
不審に思ったYさんたちがドアから顔を出すと、真っ赤な浴衣を着た若い女性が隣の部屋を開けて入っていくところだった。
隣は陸上部男子の部室なのだが、そんな所になぜ浴衣の女性が入っていくのだろうか。
顔はよく見えなかったが、どうにも場違いな格好である。
一体、今のは誰だったのか。
閉められた隣のドアを眺めながら、Yさんたちが今の女性についてあれこれ語り合っていると、そこに陸上部の男子がやってきた。
丁度いいので彼に浴衣の女性について尋ねてみると、そんな人は知らないという。
知らないと言ってもたった今、部室に入っていったところだとYさんが言うと、陸上部員は怪訝な顔をする。
「でも鍵、閉まってるはずだけど」
Yさんがドアノブを捻ってみると、彼の言う通り施錠されていた。
しかしたった今、Yさんたちの目の前で浴衣の女性がそのドアを開けていたのだ。
あの女性が中から鍵をかけたんじゃないのか。
Yさんたちがそう主張すると、陸上部員はポケットから鍵を出してドアを開けた。
彼と一緒にYさんたちも陸上部の部室に入ったが、中には誰もいない。
ロッカーも人が入れる大きさではないので、中に隠れることはできないし、他に隠れられる所もない。
窓も中から施錠されていた。
それではさっきの女性はどこに行ってしまったのか。
顔を見合わせたYさんたちだったが、その中の一人が声を上げて一方を指さした。
指差す先には、壁にビール会社のポスターが貼ってあった。
陸上部員が貼ったものであろうが、若い女性がビール瓶を持って微笑んでいる写真のポスターだった。
その女性は、先程Yさんたちが見たのと同じ、真っ赤な浴衣を着ていたという。