にわか雨

九月上旬のことだったという。
土曜日の午後、高校の水泳部が練習していると急に空が暗くなり、すぐに激しい雨が降り始めた。
にわか雨なら少し経てば収まるだろう、と判断した部員たちは部室で少し様子を見ていたが、案の定二十分ほどで雨脚がかなり弱くなってきた。
もうそろそろいいだろう、と練習を再開するために部員たちがプールサイドに戻ってきたところ、プールサイドに一人の生徒がいるのが見えた。
その生徒は学校の制服姿で、後ろ向きだったので顔は見えなかった。雨が降っていたのに傘を差すこともなく、プールの縁に背筋を伸ばしてじっと立っている。
練習中に部外者がプールサイドをうろついてほしくなかったので、文句を言おうと部長が近づいていったところ、皆があっと息を飲んだ。
その生徒が制服姿のままプールへ勢いよく飛び込んだのである。
部員たちはプールへ駆け寄った。しかし飛び込んだ生徒の姿はどこにもない。
飛び込んだせいで水面は波立っていたものの、水は透明で底までよく見える。誰かが潜っていれば見えないはずはないのに、たった今目の前で飛び込んだ生徒の姿はどこにもなかった。


その日はもう練習どころではなくなった。