図書室

Sさんは中学一年生の時、図書委員になった。
図書委員の仕事として、図書室の開け閉め当番がある。
図書室は普段施錠されているので、図書委員が昼休みと放課後に開放するのである。
Sさんが図書委員になった時、先輩から言われたことがあった。
当番を忘れると大変なことになる、というのである。
しかしどう大変なのかは教えてもらえなかった。


真面目に当番をこなしていたSさんだったが、一度だけ、うっかりして忘れてしまったことがあった。
放課後のことで、部活動をしていたSさんのところに、図書委員の顧問の先生がやってきた。
「S、今日の図書室の当番、お前なんじゃないか?まだ開けてないのか?」
言われて気づいたSさんは、先生と一緒に急いで図書室を開けに行った。
鍵を取りに行きながら、Sさんはふと(先生が開けてくれればよかったのに)と考えた。
当番を忘れていたSさんも悪いが、図書室を開けるだけなら先生だってすぐできるはずなのだ。
なぜ図書委員自身に開けさせようとするのか。
釈然としないものを感じながら、職員室から鍵を持ってきて図書室を開けた。
するとSさんの視界に、床に散らばった何冊もの本が入ってきた。
誰がこんなに散らかしたのか。
戸惑うSさんが振り向くと、先生はため息混じりに言った。
「図書室を開けないと、なぜかこうなるんだ。だから当番は忘れないでくれよ」
先生の言う意味がよくわからなかったSさんだったが、とにかく片付けようと一歩図書室に足を踏み入れた時である。
床に落ちている本のページが一斉に、風もないのにパラパラとめくれ上がった。


Sさんは翌年以降、図書委員だけにはならないようにしたという。