送迎バス

先月末に聞いた話。


近所のおじいさんが町内の忘年会に行ったのだが、どうも帰りが遅い。
家族が心配していた所、おじいさんはなんと顔面を血だらけにして帰ってきた。
本人の説明によると、帰ってくる途中の砂利道でうっかり転んでしまい、顔面を擦りむいたのだという。
幸いにして出血の割に傷は大したことはなかったのだが、どうも話の辻褄が合わないので家族は首を傾げた。
というのも、忘年会の会場からの帰り道には砂利道などないのだ。
もう少し詳しく聞いてみると、おじいさんは会場の料理屋から送迎バスに乗って近くまで来たのだという。
近所の倉庫の前で下ろしてもらい、そこから歩いて帰ってこようとしたところ、途中の砂利道で転んだらしい。
倉庫からの道にはやはり砂利道などない。
恐らく酒が入っているせいで記憶が混乱しているのだろう、と家族は判断した。
送迎バスというのは忘年会の幹事が手配したもので、参加した人が同乗していたのだから、おじいさんがどこを通ったのか見ていた人がいるかもしれない。そう考えた家族は、翌日に忘年会の参加者数人に電話をかけて尋ねてみた。
しかし、彼らは口を揃えて「帰りのバスにはおじいさんは乗っていなかった。行きのバスでは見たけど、帰りでは見ていない」という。
ますます辻褄が合わない。
おじいさん本人は何度聞いても「送迎バスに乗って帰ってきた。後から乗ったから一番後ろの席だった」という。随分具体的で、乗ったことが勘違いだったとも思えない。
それならば、おじいさんが乗ったバスは一体何のバスだったのか。
どこの砂利道で転んだのか。
一切不明のまま、全ては酒のせいということで解決してしまい、おじいさんはおばあさんに酷く叱られたという。