並走

ある人が原付で通勤するのをやめて車を買った。こんなことがあったせいだという。
仕事帰り、ふと気付くと原付の真横に何かが並んで走っている。
自転車だ。しかし誰も乗っていない。
無人の自転車が原付と同じ速度でぴたりと横に付いて走っている。そんな馬鹿な。
そこは田んぼの中のまっすぐな幹線道路で見通しがよく、他に車も歩行者もないので、制限速度以上に飛ばしていた。自転車で追いつける速さではないし、そもそも誰も乗っていない自転車が倒れもせず走っている時点でおかしい。
振り切ろうとしてスピードを上げたがそれでも自転車は吸い付くように横に並んでくる。
どこまで付いてくるのか。このまま家まで来られては嫌だ。
横から蹴り飛ばしてやれば無人の自転車などたやすく倒れるだろう。そう考えて原付を自転車に寄せ、片足を伸ばしてサドルのあたりに蹴りを入れた。
すると突然原付に強い衝撃があり、あっという間に転倒してアスファルトの上に投げ出されてしまった。
呻きながらも何とか立ち上がると、周囲にも前方にもあの自転車はない。何もない道路の真ん中で自分が勝手に転んだような状況だった。
転んだ原因の衝撃は自転車の反対側から受けたように感じられた。まるでそちら側から何かがぶつかってきたような感じだったという。
この事故により右腕を折る大怪我を負った。これ以来原付に乗るのが怖くなり、車に乗り換えることにしたのだという。