無人浜

R君が高校生のとき、自転車で三十分ほどかけて通学しており、その途中で浜沿いの道を通った。
その地点では三百メートルほどの長さで砂浜が道路の横に続いていたが、ある時ふと思ったことがあった。
この砂浜――人がいない。
近場の他の浜や岸では大抵どこでも釣り人や散歩する人の姿を見かけるが、この浜ではそういう姿が一切ない。道路には通行があるのに、砂浜に人がいないのだ。
嵐の後に集団でゴミ拾いをしている人たちを一度だけ見たくらいで、とにかく人が寄り付かない。
どうしてだろうと考えると妙に気になり始めた。友人や家族にも聞いてみたが、誰もその浜に人がいないということを認識していなかったし、理由も心当たりがないという。学校の帰りに何度か自転車を降りて砂浜に入ってみたこともあったが、特に何の変哲もない砂浜で、人を寄せ付けないような何かがあるとも思えない。
釣りをするにも他にもっといい場所があるとか、散歩するには通りづらいとか、何かしらの知らない理由があるのだろうと推測して、R君は自身を納得させた。


夏の終わり頃、部活動で帰りが遅くなったR君がいつものようにこの浜を通りかかると、波打ち際に人の姿がある。
向こう側から走ってきているのが月明かりの下、黒い影になって見える。
珍しいなと思って眺めながら自転車のペダルを漕いでいたが、ふと何か聞き慣れない音がしていることに気がついた。
びよん、びよ、びよっ。
波の音に交じってなにか奇妙な音が続いている。次第に近づいてきている。
どうもあの波打ち際を走っている人の方から聞こえているようだ。一体走りながら何をしているのだろう。
R君は砂浜に目を凝らした。
近づいてくるにつれて、走ってきたものが何だったのかがわかり、R君は呆然とした。
それはそのままの勢いでR君の数メートル先を通り過ぎていく。R君はそれが戻ってくるかもしれないと思い、急いでその場を離れた。
以来、R君は帰りが遅くなる時は浜沿いの道を避けて遠回りするようになったという。


走ってきたのは何だったんです? そう尋ねると、R君は口籠った。
それから途切れ途切れにこんなことを言った。
金属だと思うんですけど、薄い板でした。人の形をしてて。それが走るとたわんで、びよんびよん音がするんです。
あんなのが出るから人がいなかったのか、それとも人がいないからあれがいたのか、それはわかりませんが。