水漏れ

休日の朝、Kさんの部屋にアパートの管理人がやってきた。
「下の部屋で、天井に水が染みてるって苦情がきたんですよ。床に水とか零しました?」
そう言われてもKさんには心当たりがないし、部屋の畳も特に変わった所がない。
しかし下の部屋の水染みもなかなか無視できない大きさだということで、とりあえず確認のためにKさんの部屋の畳を上げてみることになった。
身に覚えのないことで折角の休日を片付けに追われることになったKさんは内心立腹したが、管理人が連れてきた職人が畳を持ち上げてみると、確かに床板の一箇所がじっとり湿っている。
何これ、なんで濡れてんの?
床板の染みは直径一メートルくらいの円状に広がっていたが、その上に四角いものが落ちていた。
拾い上げるまでもなくそれが写真だということはわかった。
Kさんが入居してから一度も畳を上げたことがないはずなので、少なくともそれより以前からずっとその写真は畳の下に挟まっていたものらしい。
知らずにずっとKさんは写真の上で寝起きしていたわけで、いささか気味の悪い思いをしながら写真を取り上げてみると、水に濡れて滲んでいたものの、どうやらそれは人物が二人並んで写っているようだった。顔も格好も、勿論場所もよくわからない。
写真が置かれていたのは水染みの丁度中央辺りで、何だか写真から水が染み出したかのようにも見えた。
そんな想像までしてしまってすっかりその写真が忌々しくなったので、Kさんはそれをすぐにゴミ箱へ放り込んだ。
すると一方で、職人と管理人がなにやら首を捻っている。
どうしました、と聞いてみると二人は畳の裏を指差した。
床がこんなに湿っているのに、その上にあった畳には水が全く染みていないのである。
畳を持ち上げてから水を撒いたのでなければ、まるで畳と床の境目から湧き出した水が床にだけ染み込んでいった――そうとしか思えないような状況だという。
やっぱりあの写真か?そんなまさか。
Kさんはゴミ箱を覗き込んだが、他のゴミの隙間に滑り込んでしまったか、さっきの写真は見当たらなかった。


結局、水染みの原因はよくわからなかった。
その後管理人は下の階の住人に対して、配管の故障で水漏れしていたと説明したらしい。
それからは特に水漏れしたという話も聞かないという。