雪瓦

Nさんの住むアパートの隣に古い家があり、三階のNさんの部屋の窓からはこの家の二階の屋根がすぐ下に見える。
瓦も何枚かずれているし、前の通りから眺めても庭は草だらけで窓も雨戸を閉め切られている。隣に住んでいても、人が出入りするところを見たことがない。
以前その家に住んでいた一家は事故や病気が続いて、Nさんがアパートに入居したその年に出ていったと聞いた。それからずっと空き家のままだ。

 

雪が降った朝のことである。
ベッドから下りたNさんは、窓から何気なく隣の屋根に目をやった。積もったばかりの雪が瓦の形に波打っている。
そのちょうど真ん中に、人の手形がぽつりとひとつだけついていたという。