雨上がり

Nさんの勤めるデザイン事務所はビルの二階にあり、隣接する民家の瓦屋根が窓のすぐ外に見える。
雨が降ったり止んだりすると、この瓦屋根が濡れて黒くなったりそれが乾いたりするのでわかりやすい。だからNさんは仕事中に雨かな、と思ったらすぐ窓越しにこの屋根を見るのが癖になっていた。
ある昼過ぎのこと、朝以来の雨音が静かになったように感じられた。瓦屋根に目を向けるともう半分くらい乾いてきている。視線を戻そうとして、ふと違和感を持ったNさんは屋根をまじまじと見た。
違和感の正体は濡れた部分の形だった。
雨に濡れた部分が、人がバンザイしたように見える。その周囲は乾いていて、屋根に人の形が黒く浮き出したようになっているのだ。
偶然そんな形になっただけだろうが、面白い。
そう思ったNさんはスマホで写真を撮っておこうと、カメラアプリを起動した。
窓にレンズを向けたところで、目を疑った。人の形が、レンズを避けるように横にずれていく。
水だから下に流れていくのならともかく、屋根の斜面に直交して横にずれていくはずがない。
レンズで追う間もなく、人型の模様は屋根の稜線を越えて見えなくなったという。