ゴムボール

高校の文化祭でのこと。
部室棟でカレーの模擬店の受付をしていたMさん、その目の前に犬が一匹やってきた。
野良犬だろうかと思ったが、首輪をしていたので繋がれていない飼い犬のようだ。
食べ物を扱っているのであまり近寄ってこられるのも困る。警戒しながら眺めていたところ、どうやら犬はこちらに興味がないようで、しきりに地面を嗅ぎ回っている。
やがて何かを探し当てたようで、物陰に鼻を突っ込んで何かをくわえた。
黄緑色のつやつやしたゴムボールかなにかだ。大きさはテニスボールくらいか。
犬はそれをくわえてそのまま立ち去る様子だったが、数歩進んだところで口からゴムボールがポロリと落ちた。
数度弾んで転がったゴムボールを犬がまたくわえようとしたが、その鼻先でボールが犬の目の高さくらいに浮いた。
えっ、浮いた? なにあれ?
目を疑うMさんの凝視する前で、犬はボールに飛びつく。ボールはそれを避けるように空中をよろよろと滑っていく。犬はそれをムキになって追いかける。追いつく犬をボールはまたスイとかわす。
すぐに犬もボールも視界から外れていった。
Mさんも追いかけてあのボールが一体何なのかを確かめたかったが、無理だった。
店番がなければなあ、とMさんは残念そうに語った。