Mさんが高校三年、受験シーズン真盛りの頃のこと。
深夜まで根を詰めて勉強していたら小腹が空いてきた。台所を覗くが摘めそうなものがない。
気分転換も兼ねて、最寄りのコンビニまで歩くことにした。家からコンビニまでは一本道で、歩いて片道十分もかからない。
道の片側は畑、反対側は竹林が続いている。コンビニまでの中間地点あたりには祖父母の耕す畑もあり、そこだけビニールハウスが建っている。
しかしこの夜は何やら様子がおかしかった。もうビニールハウスが見えそうなくらい歩いたのにそれらしきものが見えないのだ。
それらしき話は聞いていないが、何かあって撤去したのだろうか。それともぼんやりして通り過ぎただけだろうか。
しかし後ろを見ても前を見ても同じような畑が続いている。電柱に規則的に並ぶ街灯が点々とアスファルトを照らす。ビニールハウスが見えないということより、道そのものにどことなく違和感があった。
この道、こんなに長かっただろうか。
よく知った道のはずなのに、一度気になり始めるとただ歩いているだけでも不安になってくる。
このまま歩いていてもずっと同じ風景が続いて、永遠にコンビニにも家にもたどり着けないのではないか。
そんな考えが頭に湧いたが、そんな馬鹿なことがあるかと気を取り直してそのまま足を動かした。
すると前方にひとつ、光る点が見えた。街灯ではなく、路上をこちらに向かってくるようだ。
車――いや、光がひとつだけだからバイクか。それとも自転車。
しかしだんだんそれが近づいてくるのに、エンジン音が聞こえてこない。静まり返った夜だというのに。
なんだ、と不審に思うMさんの目の前で、その光は次第に上へと昇っていき、ついにものすごい勢いで頭上を飛び去った。
二メートルくらいの光る矢のような物体だったという。通り過ぎる瞬間に、はっきりとは聞き取れなかったものの、スポーツ実況音声のような音が聞こえたという。
飛び去っていく方向を振り返ったが、もうどこにもそれらしきものは見えなかった。
代わりに、今しがたまで見当たらなかったはずの祖父母の畑のビニールハウスがすぐ傍に見えた。コンビニにもいつも通り、そこからすぐにたどり着けたという。