駅員

駅で電車を待っていた。
夜九時過ぎで人の姿は少なく、次の電車が来るまで十五分ほど。ホームの端で缶コーヒーを飲みながら、ぼんやりと時間を潰していた。
向かいのホームに利用客の姿はなく、駅員がひとり掃き掃除をしているだけ。その様子を見るともなしに眺めていた。
ゴミが落ちているようにも見えないのだが、人が行き来したり風で飛んできたりして埃が溜まるのだろうか。駅員はほうきで床を念入りに掃いている。
なんとなく違和感があった。
床を掃く音だけが規則的に聞こえる。何が違和感の原因だろう――とその姿をじっと眺めて気づいた。
駅員の顔が見えないのだ。
うつむいて制帽の陰になっていると思っていたその顔のあたりには、向こう側の壁が見える。
顔だけでなく、ほうきを持つ手もない。中身のない駅員の制服とほうきだけが、規則的な動きでホームを掃いている。
咄嗟に写真におさめておこうとしたものの、スマホを手にしたその数秒のうちに見失ってしまった。
それ以来、駅員に顔があるか確認する癖がついたという。