物干し竿

Rさんが中学生の頃、お祖母さんが足を悪くし、一人では歩けないほどになってしまった。
家に介護用のベッドが運び込まれ、お祖母さんはそこでほとんど寝たきりの生活になった。その頃から、家で奇妙なことが起きるようになったという。
よくあったのは、家で知らない人を見かけることだった。
Rさんが学校から帰ってくると、ちょうど玄関に数人の男がぞろぞろ入っていくところが見える。背広を着た老人たちだ。
ところが玄関に入るとそれらしき靴はなく、家の中にも男たちの姿はない。そんなことが何度もあった。
話し声がすることもあった。
お祖母さんの部屋の前を通ると、お祖母さんと誰かが話している。何か深刻そうな様子だが、話の内容まではわからない。相槌を打つお祖母さんの声ははっきり聞こえるのに、しきりに語りかけてくる相手の声がよく聞き取れないからだ。
誰と話しているんだろう、と開いている引き戸から部屋を覗いてから、Rさんははっと息を呑んで立ちすくんだ。
お祖母さんがベッドで半身を起こしながら片手を差し出している。
その手の先に、ものすごく細い人が立っていた。痩せているなどという程度ではなく、全身が物干し竿のように細長い。頭などは胡瓜のようで、そこに何となく分かる程度に目鼻がついている。
その細長い人が何かもごもごと語りかけるのを、お祖母さんは涙を流しながら頷く。そして時折そうだねえとかあの時のことはよく覚えてるよとか相槌を打った。
これは見てはいけないものを見ているんじゃないかと思ったRさんは、すぐに立ち去った。それ以来お祖母さんの部屋から話し声が聞こえても、中を覗き込まないようになった。
両親にも一度これらのことについて話したものの、何かの見間違いだと一笑に付されてまともに取り合ってもらえなかった。


お祖母さんは寝たきりになってから一年近く経った頃、更に体調を崩して入院した。それを境に家で知らない人やその声を聞くことはなくなった。
入院して三ヶ月ほどでお祖母さんは亡くなり、葬儀にはいつか見たような背広を着た老人が集団で現れた。彼らがお祖母さんとどういう繋がりがあるのかは家族の誰も知らないという。