雪景色

Hさんのお祖父さんが危篤になった夜のこと。
当時Hさんは中学生で、両親と一緒に隣県の病院に駆け付けた。到着して一時間余りでお祖父さんは息を引き取り、Hさんはお母さんの運転する車でお祖父さんの家に一旦引き上げることになった。
お祖母さんもしばらく前に亡くなっていて、入院するまでお祖父さんが一人で暮らしていたその家は主を失い、どこか寒々としていた。
お母さんはすぐ病院に引き返したのでHさんはひとりになった。じきに他の親戚もやってくるということだったが、Hさんは手持ち無沙汰で家の中を見て回った。お祖父さんが元気だった頃は夏休みや冬休みに遊びに来ていたし、お祖父さんが入院してからも見舞いに来たときにこの家に泊まっているので目新しいわけではないが、どうにも落ち着かなかったのだ。
すると一階の仏間の壁に、額に入った油絵が掛かっているのが目に入った。以前に来た時にもあったかどうかは記憶にない。
茅葺屋根の家が並ぶ田舎に一面雪が積もった風景が描かれている。その雪景色の中に子供が三人、元気に走っている。
ところが彼らは前を向いているわけではなく、三人ともこちらに顔を向けてにっこり笑っている。
どうにもその笑顔が気持ち悪い。雪景色は写実的に描かれているのに、笑った子供たちの顔は口が顔の端までキュッと割れていて、そこだけ漫画のようだ。顔の表現だけが浮いている。顔だけこちらを向いているのも不気味だ。
雪景色のせいだけではなく、見ているとなぜかぞっと寒気を感じる。
ひとりでその絵を見ていることに耐えられず、足音を立てないようにリビングに戻るとテレビを点けて絵のことは考えないようにした。やがて伯父さんや従兄もやってきたので、絵についてはいつのまにか気にならなくなった。


通夜は三日後ということになり、翌日にHさんは一旦家に帰ることになった。
帰る前に仏壇に線香をあげて、それからふとあの絵に視線が向いた。
どういうわけか、雪景色の中から子供たちの姿は消えていたという。