窓拭き

Kさんが年末に自宅の窓拭きをしていた。
一階の窓をひと通り拭いて、二階の窓に取り掛かった。寝室の窓を内側から拭き、それからベランダに出て外から拭いた。
きれいになったので室内に入ろうとして、窓が開かないことに気がついた。
よく見ると窓の半月錠がいつの間にか閉まっている。これでは窓が開くはずがない。
窓を閉めた拍子に勝手に錠がかかるような構造ではないが、しかし誰が錠をかけたというのか。つい先程ベランダに出たばかりで、その後はずっと窓を拭いていた。
室内で誰かが窓に近づけばわからないわけがない。もちろん誰も窓には近づいてこなかった。
そもそもKさんは妻との二人暮らしで、妻は買い物に出掛けている。家にはKさんのほか誰もいない。
誰も窓を施錠できなかったはずなのに、現実に窓が開かない。全く不可解だ。
原因はともかくとして、これでは家に入れない。窓ガラスを割るのは気が引ける。ベランダから外壁を伝って降りるのも無理だ。電話して妻に早く帰ってきてもらうことも考えたが携帯は家の中に置いてきてしまった。
結局Kさんは妻が帰ってくるまでの一時間、十二月の寒空の下を吹きさらしのベランダで過ごした。そのせいか、翌日に体調を崩して一日寝込んだ。
ベッドに横になりながら、なぜかベランダにチラチラと動くものが見える気がした。
目をやってもおかしなところはない。しかし視線を外すと視界の端でやはりベランダに動くものが見える――ような気がする。
気になってなかなか寝付けなかったという。