サッカーコート

Oさんが高校三年生の時の話。
受験に向けて勉強に励んでいたOさんは、授業のない土日にも学校の自習室に通っていた。家でも勉強はできるものの、自習室には他にも勉強に来ている生徒たちがいるので、自分も頑張らねばという気分になれるからだ。
ある土曜日にも午前中から自習室で勉強して、午後三時頃に切り上げて帰ることにした。
自習室のある棟から校門までの間にサッカーコートの横を通る。その日はサッカー部が他校を招いて練習試合をやっているとのことだった。
試合は白熱しているようで、コートの内外から声援が飛び交っていた。サッカー部以外の生徒たちもコートのフェンスの外に並んで見物している。
Oさんはスポーツに興味がないのでそんな様子をなんとなく眺めながら通り過ぎようとしたが、ある一点を見てつい足が止まった。
サッカーコートの中ほどの地面から、人の上半身が突き出しているのだ。地面に下半身が埋まっているのかと思ったが、視線の先で上半身が移動している。下半身が埋まっていては動き回れるはずがない。上半身だけが芝の上をうろうろ動き回っているのだ。
体操服姿で髪を短く刈った男の上半身だ。腕を動かすことなく滑るようにうろついている。走り回る選手たちに交じってのろのろと動き回る。表情は見えない。
しかしコート内の選手たちはそんなものなど見えていないのか、全く気にする様子もなく試合が続けられている。Oさん以外の見物人たちも特に気にしている様子はない。
見てはいけないものを見たような気がした。
もしこのまま見ていたら、ついて来たりしないだろうか。そう考えたOさんは、視線を逸らして足早に学校を出たという。