じゃれつきまだら

Eさんが高校生の時のこと。
学校へ向かう途中、前を歩く同じ学校の男子生徒の足元に犬かなにかがさかんにまとわりついていた。
子犬かな、かわいい、と思ってよく見ると犬かどうかよくわからない。
白と茶色のまだらで、ふわふわしている。あるいはぼんやりしている。
毛がふわふわなのか、単にぼんやり見えるだけなのか判然としない。
男子生徒の足元をちょこまか動いているので見づらいのだが、そもそも形がよくわからない。どこが頭でどこが尻尾なのかもわからない。
あれ何なの、と目を凝らすがやっぱりよくわからない。
じゃれつかれている男子生徒は一向に気にしない様子でスタスタ歩いているし、周囲を歩く他の生徒たちも誰ひとり注目していない。
Eさんにしか見えていないかのようだった。
気になるのでもう少し見ていたいし、男子生徒は大股でずんずん歩いていくから追い越すのも難しい。そのまま彼の数メートル後ろを歩いていった。
すると急に足元のぼんやりした何かが男子生徒の靴の紐を引っ張った。紐が解けてばらける。
男子生徒はすぐに気づいて、しゃがんで紐を結び直そうとした。
次の瞬間、横道からオートバイが勢いよく飛び出した。しゃがみこんだ男子生徒のすぐ目の前だった。
靴紐を結び直そうとせず、男子生徒がそのまま進んでいたら間違いなく事故になっていたタイミングだった。
後ろからその一部始終を眺めていたEさんには、あの足元の何かが事故を未然に防いだようにしか思えなかった。
しかし靴紐を引っ張った一瞬だけ、Eさんの目にはそのぼんやりした何かがはっきり像を結んだ。
あちこち汚れてまだらになった、人の腕だった。

靴紐を結んだ男子生徒が立ち上がったときには、もう足元におかしなものは見えなくなっていたという。