犬の散歩

Jさんが妻と一緒に近所のコンビニに行った帰り道のこと。
向こうから腰の曲がったおじいさんがうつむきがちに歩いてくるのが見えた。その足元を白い中型犬がせわしなく動き回っている。散歩中なのだろうが、犬をつないでいる様子はない。
引き綱なしでも勝手に走り去ったりしないなんて、よく躾けられている犬なんだな。そう感心しながら眺めていた。
しかし距離が縮まるにつれて疑問が湧いてきた。よく目を凝らしても犬の姿がはっきりしない。
犬か、あれ?
白い毛に覆われているように見えるものの、どこが頭なのかわからないし、脚も見えない。
ただ丸いだけのかたまりで、どう見ても犬ではなくぼんやりした毛玉だ。
一体あれはなんだろうと思いながらおじいさんとすれ違った。
振り返ってもう一度見たが、おじいさんは一人で歩いている。白い毛玉などない。
隣を歩く妻に、なあ今の犬みたいな――と言いかけたところ、硬い表情で止められた。
やめて。口に出してあんなのに付いてこられたら嫌でしょ。
それからは二人とも無言のまま、家まで一度も振り返らずに帰った。
しばらくの間は家の近くで犬の散歩を見かけるたび、本当に犬かどうかよく見る癖がついたという。