檻ラジオ

Oさんが中学生の頃、両親と一緒に祖父の家を訪ねた。
到着してから持ってきた果物を食べながら久々に会った祖父と歓談したが、やがてOさんは退屈してきた。そこで両親と祖父を残して外に出た。
祖父の家はOさんの暮らす家と違って山の中にある。家の周りを歩くだけでも見慣れないものがあって面白い。
Oさんは家の裏手の方へぶらぶら歩いていった。特に目当てがあるわけではなかったが、そちらには納屋と畑がある。
すると行く先の方からかすかに音楽や人の声が聞こえてきた。なにかの機械から音声が流れているようだ。
なんだろうと思って近づいていくと、納屋の脇になにか箱のようなものがある。
それは金属製の檻だったが、先程から聞こえている音声はその中から流れているようだ。中を覗くと小型のラジオらしきものがぽつんと置かれている。そこから放送が流れているのだ。
なんで檻の中にラジオなんか入れてるんだろう。じいちゃん、ボケてきたのかな。
とりあえずラジオを取り出してスイッチを切ろうと思ったOさんは、檻の扉のストッパーを探して外した、その途端。
中から弾かれるように檻の扉が開き、なにか黒い塊が飛び出したかと思うと地面を滑るように走って藪に飛び込んだ。
扉が開いた檻の中にはラジオなどもうなくなっていた。ラジオが飛び出していったのか?
引き返して家族に今見たものを話すと、祖父はしまったという顔をした。
最近畑が獣に荒らされるから罠を仕掛けたらでっかいムジナが捕れた。それを後で役所に引き取ってもらおうと檻に入れておいたんだ、と祖父は言う。
そうすると檻から飛び出していったのはムジナか、と納得しそうになったが、しかし檻の中を覗いたときにはラジオしか入っていなかった。
そう言うと祖父は残念そうに頷いた。

そりゃあ化かされたんだ。あらかじめそこにムジナがいると知ってればそう簡単には化かされなかったろうになあ。お前にも言っておけばよかった。