イチョウの木

ある古い家で法事があり、親戚一同が集まった。
菩提寺で法要が終わり、墓参りを済ませてから親戚の家に戻ってみんなで食事をしていたときのこと。
集まっていた親戚の中には小学校低学年やもっと幼い子どもが四人ほど含まれていて、彼らは大人たちの間で飲み食いしたりぐずったりしていた。
しかし不意に子どもたちが一斉に立ち上がったかと思うと、庭に面したガラス戸の方に歩いていく。
大人たちの視線もつられてそちらへ向いた。
ガラス戸の向こうには庭に立つ古くて大きなイチョウの木が見える。そこに何人か登っていた。
登っているのは子どもたちだ。親戚の子どもたちがいつの間にかイチョウの木の枝に掴まって、こちらをじっと眺めている。
しかし同じ子どもたちが部屋の中にいて、ガラス戸越しにそれを見ている。
同じ顔が部屋の中と外で見つめ合っていた。服装も全く同じ。
――外にいる子どもたちは一体誰だ?
おい、何だあれ、と驚いた大人がガラス戸を開けて庭に出ようとした。
すると木に登っていた子どもたちは、ぽんぽんと飛び降りたかと思うと猫のような素早さで走り去り、あっという間に庭の向こうにある土蔵の陰に消えた。
大人たちは慌てて後を追ったが、逃げた子どもたちの姿はどこにもない。
部屋の中にいた子どもたちは何事もなかったかのように、また飲み食いしたりぐずったりをし始めた。
木に登っていたものについて尋ねてみても、奇妙なことに子どもたちはそれを見たこと自体を全く覚えていなかったという。