ショートカットの女の子

大学生のEさんはあるとき友人からこんなことを言われた。
「昨日立川で女の子と一緒にいたよな。彼女?」
確かに前日に立川へ買い物に行ったものの、ずっと一人で歩き回っていて女の子になど心当たりがない。
友人に詳しく聞くと、立川のコーヒーショップでEさんと若い女の子が向き合って談笑していたところを見たのだという。
彼の言う通り、Eさんは駅ビルのコーヒーショップで一服した覚えはある。しかしその時も一人で、誰かと一緒だったということはない。
友人によると白っぽい服で髪をショートカットにした女の子だったということだが、そんな人に会うどころか見た記憶すらなかった。
勘違いだと返事したものの、友人は何だよ隠すなよ、今度紹介しろよなどと本気にしてはくれなかった。


それからまたしばらくして、別の友人とEさんの自宅近くを並んで歩いていたときのこと。
道の向こうから男性が一人歩いてきた。Eさんの近所に住む五十代くらいのおじさんだ。
顔見知りなのでEさんがこんにちはと声をかけて会釈すると、おじさんの方もやあこんにちはと言って通り過ぎていった。
するとその直後に隣の友人から笑って肩を叩かれた。
「何だよ今の子、どういう知り合い? かわいかったじゃん」
はあ……? とEさんは絶句してしまった。
たった今すれ違ったのはどう見てもおじさんで、子と呼べたりかわいかったりということは断じてない。
一体何の話だ、と返事すると友人はまたEさんがとぼけていると思ったようで、こう続けた。
「何って今の女の子だよ、お前が今挨拶しただろ。向こうも手ェ振ってまたねって言ってたじゃん。どこで知り合ったんだよあんなかわいい子」
そんなことを言われてもEさんには全く見当がつかない。隣を歩いていたはずの友人と全く違う世界を見ていたようにしか思えなかった。
友人に詳しく話を聞いてみると、何でもその女の子は大学生くらいで黒い髪をショートカットにしており、にっこり笑った口元にひとつホクロが見えたという。
冗談を言っているにしては話が細かいし、以前立川で一緒にいたという女の子とも髪型が一致している。
友人同士が口裏を合わせてEさんを担いでいるのかとも思ったものの、どうもそういう様子もない。
どういうことなのかEさんには訳がわからなかった。


それ以降も何度かEさんは同様に知らない女の子と一緒にいるところを目撃されたようだった。
そのいずれもEさんに全く心当たりはなく、Eさんだけがまだそのショートカットの女の子を見たことがない。
Eさんが忘れたころにまた誰かからその女の子の話を聞かされるのだという。