新幹線

東京から新大阪行きの新幹線に乗った人の話。
名古屋を出て少し経った頃のことだったという。
窓際の座席で本を読みながらゆっくりしていると、伸ばした脚のすね辺りを誰かに軽く蹴っ飛ばされた。
反射的に視線を上げたものの、当然そこに見えるのは前の座席の後ろ側だけ。
前から蹴ることなど誰にもできない。隣も空席なのでそちらから蹴られたわけでもない。はっきりと誰かの脚に蹴られた感触があったのに。
じゃあ何だったんだ今の、と周囲を見回すと、通路を挟んで向こう側の座席にいた年配の女性がこちらの足元を凝視している。
口をぽかんと開けて、いかにも信じられないものを見たという表情だったが、こちらの視線に気がつくと気まずそうに目を逸らした。
一体何を見たんですか、とは聞けなかったという。