Kさんの職場はビルの五階にあるので、毎日エレベーターで上る。
ある朝Kさんが一階でエレベーターに乗ると、なぜか一人きりになった。いつもであればその時間は出勤してきた人たちが続々と乗るのだが。
珍しいなと思いながら五階のボタンを押すと、すぐに扉が閉まった。
動き出して数秒で、エレベーターが妙に振動しているのに気がついた。
えっ、地震? と思わず声を上げる。
「違うねえ」
どこからか声がした。笑いをこらえるような言い方だった。
続いて、外から壁を激しく叩くような音が響く。
バンッ! バンッ! バンッ!
動いているエレベーターの外から、しかも天井でなく壁を誰が叩けるというのか。
何これっ!?
半分パニックになってKさんが声を上げると、目の前でドアが開いたので転げるように外に飛び出した。
目の前にスーツ姿の人が何人も立っている。
見回すとどういうわけか、一階のエレベーター前だった。エレベーターは上がっていたはずなのに。
同僚から怪訝そうな視線を向けられたが、適当にごまかしてその場を離れた。もう一度エレベーターに乗る勇気はなかったので、その日は五階まで階段で上がったという。