車で通勤している人の話。
職場に向かう途中に人通りのそれなりに多い交差点がある。
毎日同じくらいの時刻にそこを通るのだが、信号待ちをしているとそこを通る歩行者の顔ぶれも毎朝大体同じなことに気がついた。
朝は歩行者も通勤や通学の人が多いのだからそれは当たり前なのだが、それらの歩行者の中に気になる顔があるという。
なぜか口を大きく開けたまま歩いてゆく人がいるのだ。
目や鼻のあたりは長い前髪が垂れていてよく見えないのだが、顔の下半分がほとんど口に見えるほど大きく開けてそのまま歩いている。
服装からして恐らく若い男性らしく見えるのだが、いつ見てもその人は全く同じように口を開けている。
奇妙なことはそれだけではない。
口を開けた人物はいつも同じ人と一緒に歩いており、彼が一人で歩いていたことは一度もない。
一緒にいる人は特に変わったところのない背広姿の中年男性なのだが、奇妙なのは口を開けた人物が常に中年男性の向こう側にしか見えないということだった。
並んで歩いているならば、こちらに近づいてくる時と遠ざかってゆく時で二人の重なり方は違うはずだ。
しかし彼らは、常に中年男性の方が手前に見える。たまたまそうなることはあるにしても、いつもそのようにしか見えないのはおかしい。
そのことに気がついてから一層気味が悪くなって、いることに気がついてもできるだけ見ないようにしてやり過ごすようになったというが、今でも時々同じ場所で見かけるらしい。