披露宴

浜松町のホテルで結婚披露宴が行われた時の話。
新婦友人として出席したTさんが新婦お色直しの間にお手洗いに行った。
用を足して戻ってきてみると、会場の雰囲気がどことなく違う。
まだ新婦は戻ってきていないようだが、照明か何かが変わったのだろうか。
違和感を覚えながらも自分の席に着こうとすると、同じテーブルの他の客が先程と全く違う。
Tさんは女性ばかりのテーブルにいたのに、そのテーブルは髪の短い男性ばかりだ。
あっ、部屋を間違えたのか。
慌ててその部屋から出ようと振り返ったが、そこで違和感の正体に気がついた。
会場にいる参列客のほとんどが坊主頭なのである。
中には背広姿ではなく、紫色の袈裟を身に付けた僧侶そのものの身なりの人も交じっている。
みんなお坊さんなのかな、と思いながらその部屋を出た。
自分の出席した会場はどっちだったっけ、と周囲を見回すとすぐ近くに新郎新婦の名前が書いてある立て札があった。
ほっとしたのも束の間、そのドアはどう見てもTさんがたった今出てきた会場である。
お手洗いに行く前はお坊さんの姿などなかったし、自分の席の周りの顔ぶれも違っていたのだからあれはどう見ても違う会場だ。
しかしここには確かに友人である新婦の名前が書かれている。
どちらが正しいのだろうか。
混乱したTさんは、とりあえずもう一度確かめてみようと考えて再びそのドアを開けた。
するとちょうど会場が暗くなるところで、すぐに会場の反対側からお色直しを済ませた新婦が入ってきた。
やはりこの会場で間違いはなかったらしい。
首をひねりながら自分のテーブルに戻ると、そこには先程のような坊主頭の人ではなく、お手洗いに行く前と同じ顔が並んでいる。
他のテーブルにも坊主頭の人や袈裟を着た人の姿は全く見られない。
お坊さんがいた会場を出てからはドアの前を離れていないのだから、別の部屋に入ったということは絶対にありえない。
しかしそうだとすると一体さっき見たものは何だったのだろうか?
腑に落ちないものを感じていたTさんだったが、ふとあることを思い出してなんとなく納得が行った気分になった。


新婦はお寺の娘だった。