車の中

Mさんが仕事中、外から戻ってきた同僚にこう言われた。
「車で子どもが待ってるみたいだけど、どうかしたの?」
そう言われても何のことなのか見当がつかない。
Mさんは独身で子どもなどいないし、車の中に誰かを待たせているということもない。
詳しく話を聞いてみると、駐車場に駐めてあるMさんの車の中に、小学一年生くらいの男の子が乗っていたのだという。
出勤してきた時に車の鍵は掛けたはずだが、もしかしたら掛け忘れていて、知らない子供が乗り込んで悪戯しているのかもしれない。
慌ててMさんが車を見に行くと、しかし鍵はちゃんとかかっていて、中にも誰もいない。
同僚の見間違えかと思ったが、同僚ははっきり見たという。
釈然としないままその時はそれきりになった。


またしばらくして、今度は会社の隣にあるコンビニの店員がこう言う。
「おたくの駐車場の車にずっと子供がいるけど、どうしたんですか?」
ちょっとした時にMさんの職場の駐車場に目をやると、駐めてある車の一台にいつも小さな子どもが乗っているのだという。
どの車なのかを詳しく聞いてみると、車種と色からして間違いなくMさんの車だ。
しかしMさんはそんな子どもなど見たことがない。


その後も会社に来たお客さんや、数人の同僚から何度か車の中の子どもについての話を聞かされた。
しかし、いまだにMさん自身はその子どもを見ていない。
特に実害はないので気にはしていないという。