コンビニ

名古屋で働くKさんが法事のために長野の実家に帰ることになった。
その日の仕事を終わらせてから出発したので、長野県に入ったのはもうすっかり夜が更けてからのことだった。
山道を運転しているうちにトイレに行きたくなってきたので、どこかちょうどいい所を探していると、前方に店か何かの明かりが見えた。
近づいてみるとそれはコンビニだったので、早速そこに車を駐めてトイレを借りることにした。
もう零時近いためか、店内に他の客の姿はなく、店員も奥にいるのか、レジにも誰もいない。
とりあえずレジの奥に向かって「トイレ借ります」と声をかけたが、特に反応もなかったので、そのまま店の奥のトイレに入って用を足した。
トイレを借りるだけでは悪いので、缶コーヒーでも買おうと思って棚を見ると、なぜか飲み物が一つもない。
そればかりか、入ってきた時は気が付かなかったが、よく見てみると他の商品もほとんど棚に並んでいなかった。
――何だこれ、まさかこの店、営業してないのか?
店員が全く姿を見せないのも何だか不気味だった。
商品がないのなら用もないので、すぐに店を出て車に乗り込み、エンジンを掛けた。
するとその途端、眼の前がふっと真っ暗になった。コンビニの明かりが消えたのである。
車のライトを点けると、そこに浮かび上がった建物はコンビニなどではなくて、ただの荒れたプレハブの小屋でしかない。
たった今Kさんが出てきたはずの扉も、取っ手が針金でぐるぐる縛られているのが見えた。
あれでは開くはずがない。今しがた出てきたのは一体どこからだったのか?
さっぱり訳がわからず、急に恐ろしくなったKさんは逃げるようにその場を後にしたのだという。