遅れた棺

昨年の話。
一人の女性が亡くなった。
告別式を済ませ、棺が遺族と一緒にバンに乗って出て行くのを見送ってから、親戚一同も火葬場へ出発した。
しかし親戚たちが到着してみると、まだ棺が到着していない。
葬儀会場からは基本的に一本道である。追い越した記憶はない。
するとどこかへ寄り道でもしているのだろうか?
だが、火葬場へ向かう棺を載せた車である。寄り道など考えにくい。
確認のために、故人の母親の携帯電話にかけてみた。なぜか通話中だった。
仕方がないので手持ち無沙汰のまま火葬場で待っていると、一台のタクシーが到着した。
降りてきたのは、故人の妹だった。
遠くで暮らしているその人は、飛行機のチケットが取れなかったので告別式に間に合わなかった。それで最寄の駅から直接火葬場に来たという。
火葬には間に合ってよかった、と彼女は言った。
それから数分もしないうちに、今度は棺を載せたバンが到着した。
「何でこんなに遅くなったの?」待っていた一人が聞くと、棺と一緒に来た人たちは皆、怪訝な顔をした。
葬儀会場を出てから火葬場まで、まっすぐ寄り道などせずに走ってきたというのである。


誰かがしみじみと呟いた。
ああ、あの子、妹と仲がよかったからねえ。来るのを待ってたのかもねえ。